工事の「契約不適合責任」とは、引き渡された工事の目的物が、種類や品質の点で契約の内容に合っていないとき、請け負った会社が負う責任です。発注者は、修補(直すこと)、代金の減額、損害賠償、契約の解除を、それぞれの要件に応じて求められます。責任の期間は契約で異なり、一律の「工事保証○年」ではありません。
期間は、何も決めていなければ民法のルールで、不具合を知ってから1年以内に請負人へ通知する必要があります。一方、契約条件のひな形である民間建設工事標準請負契約約款(甲・乙)では、引渡しの日から2年以内の請求が基本ですが、設備機器本体などは別の扱いです。つまり、期間は契約書の決め方で大きく変わります。この記事では、2026年10月時点の法令をもとに、発注者が契約前に確かめておくことをまとめます。元請けが下請けへ発注する場合も、元請契約と下請契約の責任期間・対象範囲をそれぞれ確認してください。
「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ
2020年4月に施行された改正民法で、以前の「瑕疵(かし)担保責任」は「契約不適合責任」に改められました。考え方の中心が「隠れた欠陥があるか」から、「契約で決めた内容に合っているか」に変わっています。
そのため、契約書や仕様書に、何を・どの品質で施工するかが書かれているかどうかが、後で責任を問えるかに直結します。
発注者が請求できること
請負契約には、売買の規定が準用されます。準用とは、性質に応じて読み替えて適用することです(民法 第559条)。工事の目的物が契約に合っていない場合、発注者は次のことを請求できます。
| 請求 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 履行の追完(契約に合う状態にすること) | 修補(直す)、代わりの物の引渡し、不足分の引渡し | 第562条 |
| 代金の減額 | 相当の期間を決めて追完を求めても直らないときなど、不適合の程度に応じて減額 | 第563条 |
| 損害賠償 | 請負人に責任を負わせる原因がある場合などに、不具合によって生じた損害を賠償 | 第564条(第415条) |
| 契約の解除 | 一定の条件のもとで、契約を解除 | 第564条(第541条・第542条) |
ただし、発注者が提供した材料や、発注者の指示が原因の不具合は、原則として請求できません。請負人がその材料や指示が不適当だと知りながら伝えなかった場合は別です(第636条)。
期間のルール
民法のルール(契約で決めていない場合)
- 種類・品質の不適合は、不具合を知った時から1年以内に請負人へ通知しなければ、請求できなくなります(第637条第1項)。
- ただし、引渡しのときに請負人が不具合を知っていた、または重大な過失で知らなかった場合は、この1年の制限は適用されません(同条第2項)。
- 通知の期限とは別に、請求権には一般の消滅時効(一定期間の経過により権利の消滅が問題になる制度)が適用されます。原則として、権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年の、先に到来する時点が基準です(第166条)。通知した日から時効が始まるわけではありません。
標準請負契約約款のルール
以下は、国土交通省が公表する令和7年12月改正の約款です(令和8年2月の正誤表も公表されています)。**標準約款の期間が、すべての工事に法律で一律に適用されるわけではありません。**契約に採用した約款と特約を確認してください。
| 約款 | 請求できる期間(基本) | 設備機器等の扱い |
|---|---|---|
| 公共工事標準請負契約約款(第57条) | 引渡しから「○年」。原則として2年を記入 | 設備機器本体等は引渡し時に検査し、直ちに追完を請求。通常の注意で発見できなかった不適合は「○年」(原則1年)以内 |
| 民間建設工事標準請負契約約款(甲・第44条) | 引渡しから2年 | 建築設備の機器本体・室内の仕上げや装飾・家具・植栽等は引渡し時に検査し、直ちに追完を請求。通常の注意で発見できなかった不適合は1年以内 |
| 民間建設工事標準請負契約約款(乙・第35条) | 引渡しから2年 | 甲と同様に、建築設備の機器本体等にも検査・即時請求と1年の例外がある |
| 建設工事標準下請契約約款(第47条) | 引渡しから「○年」。原則として元請契約の期限に相応する数字を記入 | 設備機器本体等にも検査・即時請求の定めがある。発見できなかった不適合の期間は、原則として元請契約の設備機器等の期限に相応する数字を記入 |
各約款には、責任期間内に不適合を知って通知し、その通知から1年以内に所定の請求等をすれば、期間内の請求等とみなす規定もあります。請求等では、不適合の内容や請求の根拠を示して責任を問う意思を明確に伝えます。
故意(わざと行うこと)・重過失(著しい不注意)による不適合には上記の期間制限を適用せず、民法による扱いです。また、これらの責任期間には民法第637条第1項の通知期限を適用しない定めがあります。引渡し時に知っていた不適合の即時通知については約款ごとに規定が異なるため、契約書で確認します。
新築住宅の特例
住宅を新築する工事では、構造耐力上主要な部分と、雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の責任が法律で決まっています(住宅の品質確保の促進等に関する法律 第94条)。これより注文者に不利な特約は無効です。
電気工事・管工事の多くは、この特例の対象外です。工場・ビル・店舗の設備工事では、契約書で決めた期間が基本になります。
「契約不適合責任」と「メーカー保証」「工事保証」の違い
| 名前 | 誰が負うか | 何に対してか | 期間の決まり方 |
|---|---|---|---|
| 契約不適合責任 | 工事を請け負った会社 | 契約の内容に合わない施工・目的物 | 法律(民法)と契約書 |
| メーカー保証 | 機器のメーカー | 機器そのものの故障 | メーカーの保証書 |
| 工事会社の独自の保証 | 工事を請け負った会社 | 会社が定める範囲 | 会社の保証書・契約書 |
機器本体の不具合でも、契約内容に適合しなければ工事会社の契約不適合責任が問題になります。メーカー保証の有無や満了だけで、工事会社の責任が決まるわけではありません。不具合が起きたとき、まずどこに連絡すればよいかを、引渡しのときに確かめておきましょう。
契約書で決めておくことのチェックリスト
建設業法では、契約不適合の責任や、その履行のための保証保険などの措置について定めをする場合は、その内容を契約書に書くことになっています(建設業法 第19条第1項第13号)。
- 請求できる期間(引渡しから何年か。民法のルールによるのか、約款の期間によるのか)
- 期間を数え始める日(引渡しの日、部分引渡しの日など)
- 設備機器・消耗品など、別の扱いにする部分とその期間
- 引渡しのときの検査の方法と、検査で見つけた不具合の通知のしかた
- 不具合の連絡先(工事会社、メーカー)と、駆けつけまでの目安
- 修補の方法を誰が決めるか、修補の間の仮設・停電・断水の扱い
- 損害賠償の範囲や上限を決める場合は、その内容
- 保証保険や、工事会社の独自の保証書があるか
- 仕様書・図面・見積書など、「契約の内容」を示す書類がそろっているか
不具合が見つかったときの手順
- 記録する: 日時・場所・状態を写真やメモで残します。
- すぐに通知する: 契約書に書かれた方法で、工事会社に書面(メールなど記録が残る形)で知らせます。
- 原因を確かめる: 施工の不具合か、機器の故障か、使い方によるものかを、工事会社と一緒に確認します。
- 対応を決める: 修補の方法と日程、費用の負担を、書面で取り決めます。
通知を作るときは、次の欄を埋めると、設備と不具合を特定しやすくなります。これは初回連絡のための整理欄です。請求に必要な内容や期限は、採用した約款・特約で確認してください。
件名:工事後の不具合の通知(工事件名:__)
契約日・引渡日:__
対象設備・設置場所・型番:__
発見日時・症状・運転への影響:__
契約内容と異なると考える点(仕様書・図面の該当箇所):__
添付資料(写真・試験記録など):__
依頼事項(現地確認・原因調査・修補の協議など):__
返信先・現地確認の調整窓口:__
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この記事は、工事後の不具合に対する責任・期間と、契約時の確認に絞っています。見積もり全体の比較や取引上のトラブル予防は、次の記事で扱います。
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- 管工事・設備工事の見積もりは 管工事・設備工事の見積もりの取り方と比べ方 へ。
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依頼先を探す
工事の後も相談しやすい会社を選ぶには、地域の会社をいくつか比べることが大切です。会社をさがす から地域を選び、許可の業種や有効期限を確かめたうえで、保証の内容も含めて見積もりを比べてください。



