2024年6月に成立した改正建設業法(令和6年法律第49号)は、2025年12月12日に完全施行されました。下請けとの取引で元請けが押さえておきたい変化は、次の3つです。
- 労務費などを著しく下回る見積もりが禁止されました。元請けが下請けに、その方向へ見積もりの変更を求めることも禁止されました。
- 受注者である建設業者にも、正当な理由のない原価割れの契約や著しく短い工期の契約が禁止されました。下請けが自ら示した条件でも、適法かを確認する必要があります。
- 資材の値上がりなどの**「おそれ情報」を契約前に通知**し、後から変更の協議を申し出るしくみができました。
この記事は、下請けに工事を発注する元請けの契約実務に絞って説明します。
あわせて、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作り、2025年12月に実施を勧告しています。この記事では、2026年10月時点の条文にもとづいて、元請けが見直す点を整理します。
労務費は、工事に従事する人の労働に対して必要な費用です。原価割れとは、工事に必要な費用を下回る代金で受注することです。
建設業法でいう「建設業者」は、建設業許可を受けた者です。以下で受注者への禁止や努力義務を説明する箇所も、この用語の対象に注意してください。
改正の全体像
| 項目 | 改正前 | 改正後(段階的に施行) | 条文 |
|---|---|---|---|
| 原価割れの契約 | 注文者が取引上の地位を不当に利用することを禁止 | 加えて、**受注者(建設業者)**も、正当な理由がなければ原価割れの契約を禁止 | 第19条の3 |
| 著しく短い工期 | 注文者に禁止 | 加えて、受注者にも禁止 | 第19条の5 |
| 見積書 | 内訳を明らかにする努力義務 | 材料費・労務費・必要な経費の内訳と、工程ごとの日数を書いた「材料費等記載見積書」を作る努力義務。材料費等を著しく下回る額の記載は禁止 | 第20条第1項・第2項 |
| 見積もりの変更の依頼 | (規定なし) | 注文者が、材料費等を著しく下回るような変更を求めることを禁止 | 第20条第6項 |
| おそれ情報の通知 | (規定なし) | 資材の高騰などのおそれを契約前に通知し、発生したら変更の協議を申し出られる(2024年12月13日施行) | 第20条の2 |
| 労務費の基準 | (規定なし) | 中央建設業審議会が作成し、実施を勧告できる | 第34条第2項 |
| 労働者の処遇 | (規定なし) | 建設業者は、適正な賃金の支払いなど労働者の処遇の確保に努める | 第25条の27第2項 |
1. 見積もりと「労務費に関する基準」
材料費等記載見積書
建設業者は、契約を結ぶときに、工事の種別ごとの材料費・労務費・適正な施工に欠かせない経費などの内訳と、工程ごとの作業と準備に必要な日数を書いた見積書を作るよう努めます(第20条第1項)。注文者から求められたら、契約までにこの見積書を渡さなければなりません。注文者には、その内容を考慮する努力義務もあります(同条第4項)。
そして、見積書に書く材料費等の額は、通常必要と認められる額を著しく下回ってはいけません(同条第2項)。これは努力義務ではなく禁止です。
労務費に関する基準
「通常必要と認められる労務費」の目安として、中央建設業審議会は「労務費に関する基準」を作り、2025年12月に実施を勧告しました(国土交通省の報道発表)。2026年10月時点では、国土交通省のポータルサイトで基準の本文・運用方針・職種分野別の基準値が公表されています。基準値は標準的な施工条件を前提とした単位施工量当たりの労務費です。個別工事にそのまま当てはめず、作業内容や施工条件に応じて見積もります。社会保険料などの法定福利費のうち、事業主が負担する分などの必要経費は別途確保します。基準値のない職種分野でも、適正な労務費等を確保する考え方は共通です。
元請けが気をつけること
元請けは、下請けにとっての注文者です。そのため、下請けが出した見積もりに対し、「労務費をもっと削ってほしい」など、材料費等が通常必要な額を著しく下回るような変更を求めてはいけません(第20条第6項)。値下げの交渉そのものが禁止されたわけではありませんが、労務費や必要な経費を削らせる形の交渉は避ける必要があります。
なお、発注者(施主)がこの規定に違反し、変更後の見積もりにもとづいて契約を結び、その工事を施工するために**通常必要と認められる費用が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)**となる場合は、国土交通大臣・知事が勧告し、従わなければ公表できるしくみも新しくできました(第20条第7項、施行令第6条の2)。
建設業者である元請けが違反した場合は、建設業法第28条に基づく指導・監督の対象になります(「労務費に関する基準」)。
2. 下請け側の「原価割れ」「短すぎる工期」も禁止に
改正前から、注文者が取引上の地位を不当に利用して原価割れの代金で契約することは禁止されていました(第19条の3第1項)。改正で、受注者である建設業者も、原価割れの代金で契約してはいけないことになりました(同条第2項)。自ら保有する低廉な資材の使用、先端技術等による工事原価の低減、緊急の必要その他やむを得ない事情など、省令で定める正当な理由がある場合は除きます。ただし、必要な労務費まで削減できると一律に判断しないでください(国交省説明会資料)。
工期も同じです。注文者だけでなく、受注者も、通常必要な期間に比べて著しく短い工期で契約してはいけません(第19条の5)。
元請けにとっては、「下請けが安く・短く出してきたから、そのまま契約した」という説明が通りにくくなります。極端に安い見積もりや短い工期の見積もりが来たら、根拠を確かめることが大切です。
3. 資材の値上がりなどの「おそれ情報」と、変更の協議
受注者である建設業者は、主要な資材の不足・価格高騰や労務の供給不足・価格高騰など、法令所定の事象が発生するおそれがあり、工期や代金に影響すると認めるときは、契約を結ぶまでに注文者に通知します。通知には、事象の状況を把握するために必要な根拠情報も添えます(第20条の2第2項)。
通知していた事象が実際に起きたら、下請けは工期・工事内容・代金の変更の協議を申し出ることができ、注文者(元請け)は、根拠がないなど正当な理由がある場合を除いて、誠実に協議に応じるよう努めなければなりません(同条第3項・第4項)。
事前通知がない場合でも、契約書の定めに従って変更の協議を申し出られます。 国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン第12版(本文16ページ、(6))は、事前に通知されていなかったことだけを理由に元請けが協議を拒むことはできず、通知がある場合に準じて誠実に応じることを求めています。通知の有無を確認したうえで、価格変動などの根拠と契約条件を検討してください。
契約書には、価格等の変動・変更に伴う工事内容や代金の変更に関する定めと、代金の額の算定方法を記載します。2024年12月13日施行の改正では、請負代金等の「変更方法」の記載も明確化されました(第19条第1項第8号)。下請けとの契約書のひな形に、この定めがきちんと入っているか確かめましょう。
見積もりの依頼条件や見積期間の確保など、改正前からの発注実務は、電気工事の見積もりの取り方と比べ方と管工事・設備工事の見積もりの取り方と比べ方で確認してください。
元請けの確認表
| # | 確認すること | 関係する条文 |
|---|---|---|
| 1 | 見積もりを依頼する部署と、改正後の見積書・契約書の確認担当を決めている | 第19条、第20条 |
| 2 | 下請けに、材料費・労務費・経費の内訳が分かる見積書を求めている | 第20条第1項・第4項 |
| 3 | 値下げの交渉で、労務費や必要な経費を著しく下回るような変更を求めていない | 第20条第6項 |
| 4 | 極端に安い見積もり・短い工期の見積もりは、根拠を確かめてから契約している | 第19条の3、第19条の5 |
| 5 | 契約書に、価格の変動による代金の変更と算定方法の定めがある | 第19条第1項第8号 |
| 6 | おそれ情報の通知を記録し、未通知だけを理由に協議を拒まず、変更協議に誠実に応じる体制がある | 第20条の2、国交省ガイドライン |
確認結果は、案件ごとに次の形で残すと、購買・工事・契約の担当者間で共有できます。法定様式ではなく、社内確認用のひな形です。
対象工事・下請け名:[記入]
見積書の内訳と工期を確認した資料:[資料名・日付を記入]
見積もりの変更を協議した内容・根拠:[記入]
契約前に受け取ったおそれ情報・根拠資料:[有無と内容を記入]
代金・工期の変更を協議する窓口:[担当部署・担当者を記入]
関連する記事
この記事は改正による見積もり・契約・変更協議の見直しを扱います。支払いの一般ルールや単価交渉の進め方、許可区分の判定は、次の記事で確認してください。
- 下請けへの支払いの期日や方法(特定建設業者に適用される期日の条件を含む)の詳しいルールは 下請けへの支払い条件 で説明しています。
- 下請けとの単価の決め方・交渉のしかたは 下請けとの単価の交渉 へ。
- 協力会社とのトラブルを防ぐ契約の決め方は 協力会社とのトラブルを防ぐ へ。
- 一般建設業・特定建設業の許可区分の判定は 一般建設業と特定建設業の違い へ。
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改正のあとも、適正な条件で長く取引できる協力会社を確保することが、元請けにとっての基本です。地域の電気工事・管工事の会社は、会社をさがす から地域を選んで、許可の業種や有効期限とあわせて確かめられます。対応工事や協力会社としての受注の可否、見積書の内訳・変更協議への対応は、候補の会社に直接確認してください。



